ARMS(Abstract Rewriting System on Multisets)[1]というものを用いてヨウ素時計反応(説明は後述)をシミュレートしてみます。
本来のARMSは文字列をある規則で書き換えることにより抽象的に化学反応を表すものです。
ですが、今回は他の論文で用いられていた、ベクトルの加法演算で化学反応を表現するという手法で行こうと思います。
ARMSについて
反応系にある各分子の数をベクトルの成分とし、全体の分子構成をベクトルとして記述します。
分子とあってそれぞれ1, 2, 3個ならというベクトルになります。
次に反応規則についてです。ある反応で、分子が2個消費され分子が1個生成するとします。
このときは2個減りは1個増えるので、ベクトルの成分をその分だけ増減させます。そうやって反応規則を表現します。
ヨウ素時計反応について
ヨウ素時計反応とは、2つの水溶液を混ぜ合わせ、最初何も起きない状態から少し経つと突然溶液が青紫色に呈色する反応です。
青紫色の呈色はヨウ素デンプン反応からきています。
ヨウ素時計反応 - Wikipedia
ヨウ素時計反応は以下のような3つの反応で成り立っています。
一番上の反応は遅い反応で、2番目は一番遅い反応、3番目は速い反応です。
この反応速度の違いを作るために、リストの要素に定数をかけることにしました。
速い反応ほど一度にたくさんの分子が反応すると解釈したからです。
ちなみに確率を決定してやるほうが簡単ですがわざわざこうした理由はありません。プログラムを作成した後に気が付きました。
コード
そうしてできたのが以下のコードです。
modecule_listが分子数、r_1, r_2, r_3は反応規則を表します。
反応に必要な分子が足りなくなった場合にはその反応をスキップするようにしています。
また、ベクトルでやらなくてもリストでできるのでは?と思ったのでリストでやりました。
import random import numpy as np import matplotlib.pyplot as plt modecule_list = ['a', 'b', 'c', 'd', 'e', 'f', 'g'] X = [1000, 1000, 0, 0, 1000, 0, 10000] α = 3 β = 1 γ = 6 matrix = [X] r_1 = [-1, -3, 1, 3, 0, 0, 0] r_2 = [-1, 0, -5, 0, -6, 3, 3] r_3 = [0, -1, 2, 1, 2, -1, -1] for i in range(len(r_1)): r_1[i] *= α r_2[i] *= β r_3[i] *= γ for i in range(500): j = random.randint(0,3) if j <= 1: if (X[0] < 1*α) or (X[1] < 3*α): continue X = [x + y for x, y in zip(X, r_1)] if 1 < j <= 2: if (X[0] < 1*β) or (X[2] < 5*β) or (X[4] < 6*β): continue X = [x + y for x, y in zip(X, r_2)] if 2 < j <= 3: if (X[1] < 1*γ) or (X[5] < 1*γ) or (X[6] < 1*γ): continue X = [x + y for x, y in zip(X, r_3)] matrix += [X] if X[1] <= 0: continue a_numbers = [] b_numbers = [] c_numbers = [] d_numbers = [] e_numbers = [] f_numbers = [] for i in range(len(matrix)): a_numbers += [matrix[i][0]] b_numbers += [matrix[i][1]] c_numbers += [matrix[i][2]] d_numbers += [matrix[i][3]] e_numbers += [matrix[i][4]] f_numbers += [matrix[i][5]] plt.plot(a_numbers, label = 'IO3^-') plt.plot(b_numbers, label = 'HSO3^-') plt.plot(c_numbers, label = 'I^-') plt.plot(d_numbers, label = 'HSO4^-') plt.plot(e_numbers, label = 'H^+') plt.plot(f_numbers, label = 'I2') plt.title('iodine clock reaction') plt.xlabel('steps') plt.legend() plt.show()
結果
以下が結果の画像です。
反応開始後しばらくはヨウ素分子の数はほとんど変わりませんが、亜硫酸水素イオンが消費されつくしたあとすぐに増加しているのがわかります。
これによって突然青紫色に呈色するというわけです。
亜硫酸水素イオンが無くなると分子が足りなくなるので、➀、➂の反応が止まり➁だけが反応することとなります。その結果、亜硫酸水素イオンが無くなった後は各分子数は線形に推移しています。
さらに、ヨウ素分子だけに注目すると次図のような結果が得られます。
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大小さまざまな波ができており一定していないことがわかります。
BZ反応という有名な振動反応にもこの手法は適用できます。これに関して興味のある方は[1]か他の論文を確認してみてください。
【参考文献】
[1]鈴木泰博, 田中博. "抽象化学反応系の挙動に関する研究について"
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10939059_po_ART0008413364.pdf?contentNo=1&alternativeNo=